あるがままに
座る場所

アメリカの劇作家、ハワードペインが描いた「home.sweet.home」の中の一節です。
世の中にはおしゃれでフォトジェニックな空間で溢れています。

・ロードサイドのカフェ
・洋書に出てくるようなレストラン
・海岸沿いにあるインダストリアルなBAR
・著名な建築家がその粋を集めた美術館
・完全にグリーンコントロールされた都市の公園
・大正ロマンを思わせる古民家旅館
・プール付きの高級villa

日常の中にも、旅の中にも。どこにでも。その中で、僕らの生業は何を世の中に提供することなのだろうか。いつも自問しています。住まいを持つ意味とは？と。

住まいを持つのは「巣」を持つことです。
台風の日、ずぶ濡れの中ようやく帰り着いた家でバスタオルでくしゃくしゃと髪を拭いてくれる母の手。
０度を下回る寒さの中、家に一歩入るとほんのり暖かい玄関。そしてみかんの置いてあるこたつにいる父。
汗だくになりながら自転車で家に帰り着き、まっすぐキッチンに行き、グラスになみなみ注いだ麦茶を飲み干す。
畳の上で大好きな作家の本を読みながらうつらうつら。自然風の中、気づいたら薄い毛布がかかっている。
海帰りの潮まみれの体を外シャワーで軽く洗い流し、そのままお風呂に直行し強いシャワーを浴びる。

そう、僕らが提供しているのは特別な非日常ではなくて、狂おしいほどの日常の日々の「場」なのだと。フォトジェニックな作品ではなく、そこにはリアルな生活と日常がある「巣」としての箱。だからこそ、ほんの少しの彩りと遊び心を提供したい。

自問してきた答えは。寒さや暑さ、日本特有の湿度、地震といった外敵から守る安全圏としての「巣」そして、寸分の違和感のない「私」の居場所。

あるがままに座る場所。

時に非日常の中で楽しむ日々の中で、最後にこの言葉が口をついて欲しい。
「There’s no place like home.」(我が家に勝るところはない)
あなたの「あるがままに座る場所」を。
「巣」つくりを。そう願いながら私たちもまた仕事という日常を皆様と共に。 エーセンス建築設計事務所株式会社
代表取締役　加藤 行人