本質を問い直すこと。八ヶ岳の「パンと水の研究所」に学ぶ、千葉の住まいづくり
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- Writer:熊谷 直
土地を歩き、その場所にしかない固有の素材を注意深く観察する。
私たちエーセンス建築設計事務所が日々行っている設計という作業は、じつは「目に見えない価値」を掘り起こし、空間として翻訳する仕事に他なりません。
先日、少し足を伸ばして、山梨県北杜市に誕生したTruffleBAKERYの新しい開発拠点、「パンと水の研究所(TruffleBAKERY南八ヶ岳)」を訪れました。

都心の華やかな喧騒から離れた高原の森のなかに、その施設は静かに佇んでいます。
「毎日食べるパンだから、おいしい素材とほんの少しの豊かさを」と掲げる彼らが、パンづくりの本質を突き詰めた末に辿り着いたのが、パンの約40%を占めるという「水」でした。
清らかな天然水を求めて、わざわざこの八ヶ岳の麓へと拠点を移したのだといいます。
この場所を訪れ、五感を開いて空間や彼らの姿勢に触れたとき、私自身が千葉で注文住宅を設計するうえで、最も大切にしている思想と深く共鳴するものを感じました。
効率の対極にある、本質を育む「余白」
施設に一歩足を踏み入れると、木とレンガを基調とした高い天井の開放的な空間が出迎えてくれます。

そこは単にパンを並べて売る場所ではなく、職人たちが水や小麦、酵母とじっくり向き合い、日々新しいレシピを試行錯誤する「ラボ(研究所)」としての気配が満ちていました。
映画のスクリーンを眺めるようにラボの様子を見下ろせる階段状のベンチや、アートや自然に関する本が並ぶ小さなライブラリースペース。
それらは効率性や生産性だけを考えれば、なくても困らない「余白」の空間かもしれません。
しかし、この立ち止まり、呼吸を整えられるような場所があるからこそ、一期一会の美しいパンが生まれる。
家づくりも、まったく同じです。
「部屋数がいくつ必要か」「収納がどれだけあるか」といった利便性や数字の議論だけで建てられた家は、確かに便利ではあっても、住まう人の心を芯から満たすことはできません。
忙しない日常のなかで、ふと窓の外の緑に眼を向けたり、光の移ろいを感じたりできる「心の余白」を設計すること。
それこそが、家を単なる「箱」から、かけがえのない「居場所」へと変えるのです。
素材と向き合い、土地の文脈を読み解く
TruffleBAKERYが八ヶ岳の天然水という「素材の本質」に着目したように、建築においても、その土地が持つ固有の環境や、そこで使われる自然素材のチカラを最大限に引き出すことが重要です。
千葉県という土地は、都心に近い利便性を持ちながらも、少し歩けば広大な空が広がり、心地よい風が吹き抜ける豊かな自然のポテンシャルを秘めています。
私は設計を行うとき、その土地に差し込む太陽の軌跡や、季節ごとの風の通り道を注意深く読み解きます。
冬の低い陽光が無垢の床材をじんわりと温める「日の温かさ」や、夕暮れ時の影が壁に描く美しいグラデーション。
それらは、最新の機械設備では決してつくり出せない、自然からもたらされる最高の素材です。
余計な装飾で飾るのではなく、その土地にある光や風、そして木や土といった素材が持つ「ありのままの豊かさ」を引き出すこと。
それこそが、住まうほどに愛着が深まる注文住宅のあり方だと信じています。
日々のなかに、五感がよろこぶ「上質な寛ぎ」を
八ヶ岳の森のなかで、石窯から漂うこんがりとしたパンの香りや、鳥のさえずりに耳を澄ませていると、不思議と身体の緊張が解きほぐされていくのが分かりました。

おいしいパンを口にした瞬間に五感がよろこぶように、住まいもまた、そこに身を置くだけで人間の本能が癒やされる場所でなければなりません。
それは、まるで旅先の上質な旅館に泊まったときのような、非日常の静けさを日常のなかに取り入れる感覚に似ています。
朝、お気に入りのコーヒーを淹れる香りに包まれながら、計算された開口部から差し込む柔らかな光を浴びる。
夜には、均一に明るいだけの照明を消し、間接照明がもたらす豊かな「影」のなかで、薪ストーブのはぜる音と炎の揺らぎをただ見つめる。
そんな贅沢な時間が毎日そこにあるとしたら、暮らしはどれほど豊かになるでしょうか。
あなたの物語を、ひとつの形に
「パンと水の研究所」が、水という原点に戻って新しい食の価値を創造しているように、私たちは「家づくり」という営みを通じて、住まう人が本当に求めている「暮らしの原点」を探求したいと考えています。
「家を建てる」ことは、決してゴールではありません。
その場所で、どのような朝を迎え、どのような夜を閉じたいか。
忙しない日常の中で、ふと立ち止まり、呼吸を整えられる場所。そんな「真の居場所」を、私たちは形にしたいと考えています。
あなたがこれまで大切にしてきたこと、環境、そしてこれから紡いでいきたい未来。その断片を、どうぞ私に委ねてください。
歳月を重ねるほどに愛着が深まり、家族と共に慈しみ、育んでいける。
そんな唯一無二の住まいを、エーセンス建築設計事務所の熊谷として、心を込めて創り上げます。
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